「鋼×想=力」特集
厳しい条件下でもお客様ニーズに応えソリューション力を発揮
「MCUD小牧北」プロジェクト

2024年6月24日

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ご安全に!

今回は、三菱商事都市開発株式会社様及び株式会社サンケイビル様から受注した物流施設「MCUD小牧北」の事例を紹介します。本施設は、低層物流施設向けシステム建築商品『NS スタンロジⓇ』を採用し、かつ地震エネルギー吸収能力の高い耐震部材『アンボンドブレースⓇ』を74本最適配置することにより優れた耐震性能を有する物流施設を実現しています。

施工においては基礎工事で予期せぬ変更があり調整に追われましたが、若手メンバーが奮闘した現場でもありました。完成までにどのような取り組みや工夫があったのか、プロジェクトメンバーが振り返りました。

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左から、工事担当:菅原良太(建築本部 プロジェクト部 建築工事室)、設備担当:南 雄太(建築本部 設計部 建築設備室)、構造設計:有賀惇(建築本部 設計部 鉄構設計室)(※2023.9月まで 建築本部 設計部 構造設計室 所属))、営業担当:尾籠好博(都市インフラ営業本部 建築営業部 建築営業室) 
(座談会にはオブザーバーとして西村所長も参加)

※ NSスタンロジは、当社システム建築商品『スタンパッケージⓇ』の標準化技術と独自の経済的なグリッド設計、および「アンボンドブレースⓇ」の組み合わせにより、「鋼材重量削減・全体工期短縮による建設コスト低減」と「耐震性能向上」を実現した2階建て物流施設向け商品です。

NSスタンロジへの置換え提案が受注の決め手に

編集部:はじめに建物の概要や現場の状況について教えてください。

尾籠(営業):本工事は、「NSスタンロジⓇ」を用いた2階建の物流施設です。三菱商事都市開発様とサンケイビル様の共同事業によるもので、最大5区画への分割を可能にしたマルチテナント型物流施設となっています。

建築地は愛知県丹羽郡扶桑町。東名高速・名神高速の起終点である「小牧 IC」と東海北陸自動車道「岐阜各務原 IC」の2 つの IC と 3 つの高速道路が利用可能で、関東・関西・北陸エリアへの広域配送拠点ニーズに対応可能な立地となります。延床面積は1万3200坪。2024年4月1日竣工引渡しとなります。
(※インタビューは竣工前の3月8日に行われました。)

編集部:受注までにはどのような経緯や営業の取り組みがありましたか。

尾籠:三菱商事都市開発様(以下MCUD)からは過去にもご発注いただいており、その関係で本件の引き合いがありました。もともとこの土地には紡績工場が建っており、土地所有者の関連会社である建設会社が建築条件付きでの土地売買協議を行っておりましたが話がまとまらず、当社へ引き合いが届いたという経緯になります。

編集部:受注の決め手は何だったのでしょうか。

尾籠:当初は「客先が作成した3階建てのプランで概算検討をしてほしい」というオーダーでした。しかし3階建てでは予算内に収めるのは難しい。計画内容を確認したところ建蔽率に余裕があったので「貸床面積を確保して2階建てプランを作成する」というアイデアが浮かび、設計チームにNSスタンロジでの提案書作成を依頼しました。

MCUD様にはあらかじめ「2階建てプランを作成し概算検討を行いたい」と話を通しておき、それを前提に協議を重ねました。結果的にお客様の要望を満足する提案ができたと思います。

編集部:お客様の要望を盛り込んだ最適な提案ができたのですね。

尾籠:そうですね。MCUD様とは良好な関係にありましたし、我々が物流施設を得意領域として実績を積み重ねてきた中で、今回提案には『NS スタンロジⓇ』が予算面でも品質面でも適していたと思います。3階建てから2階建てに変更することにより工期的にも問題なく進められると判断しました。良い形でお客様との商談も進み、2022年3月末に見積提出、5月に契約という流れでした。

敷地で想定外の事象が発生、厳しい条件でのスタートだった

編集部:着工までの設計チームの動きはいかがでしたか。

有賀(構造設計):構造設計については、正式契約前の 2022年のゴールデンウィーク明けから直接基礎の2階建のプランとして、打ち合わせを開始しました。しかし、設計が進む中で想定外の出来事が起こりました。工場の解体工事を請け負っていた会社が予定の範囲以上の土を掘り起こしてしまったのです。その結果、基礎を受ける直下の地盤が柔らかくなり過ぎたため、直接基礎のみでの設計が厳しい状況となってしまい、設計の再検討が必要になりました。着工日が迫る中で厳しいスタートとなりました。

編集部:具体的にはどのように対処したのでしょうか。

有賀:直接基礎に加えて、基礎下に地盤改良を施す計画に変更しました。その際に、工場の解体範囲に関する資料を取り寄せたのですが、困ったことにどの程度の範囲・深さまで土を掘ってあるのかが曖昧で、解体工事の影響が正確には計れないものでした。建屋の基礎(床)下すべてに余裕をもった深度まで改良体を配置すれば、安全面においても問題なく設計できるのですが、それではコストがかかってしまいます。ですから、そのあたりの読みどころが苦労した点でもあり工夫したところでもありましたね。

経済設計を心がけ、さらなる鋼重量削減を実現        

編集部: NSスタンロジの強みの一つとして経済設計が可能な点が挙げられますが、本件ではいかがだったでしょうか?

有賀:はい。NS スタンロジの特長に「鋼重量の削減(約15%以上削減)」がありますが、本案件では設計の工夫により、通常よりもさらに鉄骨重量を削減することができました。

背景には、計画与条件の範囲内で設定したグリッド(スパン割)が鋼重量削減に有利なグリッドだったということが大前提にあります。これに加えて大梁の梁せいの断面を、NSスタンロジの一般的な仕様から、さらに最適化していることが、鋼重量が下がった要因であると考えています。

設計上は大梁の端部と中央で部材断面を分けて設計しているわけですけれど、応力上、余裕となる中央の断面をより小さい断面に落として設計しているんです。ただその一方で、端部と中央で断面が異なってしまうと、端部断面と中央断面の境界部で耐力が弱くなってしまいます。そこで、境界部での大梁の耐力が問題ないことを確認しながら、断面を極力小さくすることで、重量減を実現しています。

編集部:経済設計をさらに一歩進めたということですね。

菅原:鋼材重量を削減する計画から2階大梁から上の鉄骨柱の厚みが薄いため、施工の際に柱の倒れ修正に苦労しました。一般的な柱の倒れ修正の方法は柱頭のみをワイヤーロープで引っ張ることで管理許容値以内となるよう修正しますが、今回は2階大梁より上の柱部分が変位するだけで、2階大梁レベルでの柱の倒れ修正が出来ませんでした。そこで、柱頭部に加え2階大梁レベルでも柱をワイヤーロープで引っ張ることで適切に柱の倒れ修正を行い、無事に鉄骨建方を完了することができました。この方法は今後に活かしていけると思います。

設備の難題も次々クリア、大きな達成感を味わった

編集部:続いて設備についてはいかがでしょうか?

南(設備担当):私は2022年7月ごろからプロジェクトに参画しました。それまでは施工管理業務を担当していたため、設備設計業務を担当するのも、物流施設を担当するのも本件が初めてであり、まずは基本的な設計業務を理解することから始める必要がありました。割と早い段階で上司が別の案件を担当することとなり独り立ちしなければならなかったので、とにかく大変だったことが思い出されますね。

編集部:設備面で工夫した点を教えてください。

:まずインフラ関係ですね。敷地内に引込む給水施設計画に、必要とされる給水管サイズを供給する給水管が敷地近傍には無く、給水可能な給水本管は敷地から約1㎞離れたところにしかありませんでした。それに加えて土地の所有権が元の土地所有者からお客様へ移転前でありながら、着工までに給水を可能とするため本管を延長してもらう必要がありました。土地所有者以外の申請、給水本管からの経路が長く複雑と、給水引込の申請・工事計画が通常よりも複雑になることが難題でした。土地の所有権移転前であることから、お客様も巻き込み、所轄水道局と急いで協議を重ねる必要がありました。その甲斐もあり、準備工事が始まって数日後には水が使える状態にしました。その時は非常に達成感がありました。

建屋の計画については、本案件は複数のテナントが入る倉庫ですので、建屋内の配管ルートにも気を配りました。建物がL字型、かつ電気配線や設備配管が他のテナント区画を通さないルールがある中で、特にL字型の入隅部分の納まり計画に非常に苦労しました。1スパン9.5mの中で2テナント分のインフラ引込・分配をせざるを得ず、外壁より電気配線用のケーブルラックを引き込んだり、換気の給排気のガラリを設置したり、将来の増設用の空間を確保しながらラックやダクトを天井内で各所に展開したり......と、特にダクト類の納まりを考えるのが難しかったですね。ブレースや庇受けの鉄骨との干渉など意匠的な問題も絡んでいたので、早いうちから意匠設計者、構造設計者と一緒に調整しながら進めていきました。

判断力が求められる現場管理で若手が大きく成長

編集部:コロナ禍の影響もあり、工程調整や現場運営の面でも大変だったのではないでしょうか。

菅原(工事):そうですね。現場としては2023年7月3日の鉄骨建方開始を目指し、基礎工事等の準備や計画を進めていました。しかし地盤改良工事が増えたことで、工期が2週間ほど後ろ倒しになってしまい、工期の間に合わせるために土曜もフル稼働しました。

私は入社6年目なのですが、工事主任として仮設事務所の計画から基礎工事までを一人で担当するのは本件が初めてでした。現場対応すべき事項がどんどん増えて、常にギリギリの中での判断を迫られます。牛尾工事長が合流されるまではやりくりが本当に苦しかったですね。

編集部:現場管理で工夫した点はありましたか。

菅原:本案件ではMCUD様側から品質管理を徹底するよう求められましたので、各種記録や現地の施工状況を万全にして常に見せられるような状況づくりを意識しました。書類や写真の量は膨大ですし、お客様からのチェックバックがあれば、その対応も必要になるので常に追われていました。大変だった一方で「自分にはまだまだやれることがある」という発見にもなりましたね。

西村(所長):2022年の契約時には、ギリギリ間に合う工期だよねという見立てでした。それが、年明けの1月に(前述した)元土地所有者の解体工事の影響で設計条件が変わってしまいました。4月15日から基礎工事、7月には鉄骨を建てることは決まっていたので遅れは許されません。我々としてはやるしかない状況下で、工程を1ヵ月近く短縮した訳ですが、工事主任の菅原君は調整が非常に大変だったと思います。

菅原:経験不足と知識不足の部分は、本を読んだり西村所長に確認・相談したりしながら進めていきました。この現場で知識量はかなり増えたと思います。

一緒に考え問題はすぐに解決。お客様と良好な関係が築けた

編集部:お客様のご評価はいかがでしたか?

菅原:現場の品質記録については「よく揃っています。十分です」と仰っていただき、全体としてよく管理できているとご評価いただいています。

尾籠:最初はこちらも手探りでしたので、とにかく我々みんなで出来ることに万全を期そうというスタートでした。

有賀:お客様からは他の案件のことでも相談を受けることも増え、信頼していただいていると感じますね。それもやはり、品質管理記録が充実していることも大きいと思います。

:設備に関して検討不足を指摘されたこともありましたが、とにかく私としては迅速かつ正確に対応することを心がけました。若手だとご承知の上で、課題があれば一緒に考えようという姿勢で協力的に接していただけたことは大変ありがたかったですね。「丁寧に仕事をしてくれたね」というお言葉をいただきとても嬉しかったです。

西村:お客様が「現場で何か問題が起きたり悩んだりすることがあるなら、早めに開示して一緒に解決していこう」という姿勢で、レスポンスよく方向性を示していただけるので、その点では非常にやりやすかったと思います。

菅原:図面や計画書に対してもスピーディーにお返事をいただけるので非常に助かりました。

尾籠:今回は、計画地の特性等から柔軟な対応が求められましたが、それぞれが力を発揮して乗り越えた現場でした。完成した建物については、価格面、工期、できばえや使い勝手の面でも非常に満足していただいていると思います。

西村:コスト面では、当社の調達担当がタイミングよく動いてくれたことも大きいですよね。基本設計の段階で全体のコストが大きく外れないように調達することで、調達費用が膨れないで済みました。また、協力業者の業務負荷をヒアリング、それをもとにお客様への調達スケジュール提案が有効でした。

尾籠:2022年3月の提案時点で、8月頃に調達するという計画になっていました。調達担当者も含めた当社プロジェクトメンバー及び客先実務担当の方々のご協力のもと、ほぼ計画通りに調達を進めることができました。調達力も当社のソリューション力の一つであり自負できるポイントだと思います。

成長と経験を次の現場に活かす

尾籠:本プロジェクトでは経験年数の少ない若い担当者の方が多数配置されていましたが、この1年でその方々の成長を感じましたね。

西村:当社は自社設計・施工の案件がほとんどですが、世の中は必ずしもそうではない。スーパーゼネコンや高名な設計事務所と組むプロジェクトも多々あり、計画書には山ほどの質疑を返されたり、より厳しい対応が迫られるケースもあります。若手の皆さんには、こうした点でも現場の厳しさを学ぶいい機会になったのかなと思います。キツイし残業も多かったけれども、若手のうちにレベルアップするために必要な経験だったと思いますね。

:そうですね。分からないことがあればサブコンさんに聞いて、とにかく必死で食らいつきました。おかげさまで機械と電気両方の設備設計を一人でやれる自信がつきました。一度心が折れかけましたが、気持ちを切り替えて前向きになれたことはいい経験になりました。

菅原:自分も大きく成長できた現場でした。残業時間は置いておいてという話になりますけど(笑)。それも大目に見ていただける現場だったので、やれるだけやれた。やり切ったという感じです。

有賀:今回は自分自身が計算書から図面作成まで、またお客様との交渉もほぼ一人で対応したので達成感がありますね。次はもっとうまくできるという自信がつきました。

西村:20代後半から30代前半というのは、たくさんの出会いや経験を通して「成長する年代」と言えると思います。時に厳しく、時に温かく接してくれるお客様に囲まれ、千本ノックを受けているような状況の中で力をつけることができた。この成果を次の現場でも活かしてもらいたいですね。

編集部:本日はありがとうございました。

NSスタンロジ®】特設WEBサイト
https://www.eng-steelstructures.com/slg/
NSスタンロジはシステム建築の強みである、高品質・短工期・納得価格を実現しながら、お客様の荷物を守り、より高い安全性と使い勝手のいい空間をご提供します。


【プロジェクト概要】「MCUD小牧北」

所在地   : 愛知県丹羽郡扶桑町大字南山名西ノ山200番地 他3筆
工期    : 2023年3月~2024年4月
建物用途  : 物流施設
階数/構造 : 鉄骨造2階建て(耐震構造)
延床面積  : 約 43,700 ㎡ 
敷地面積  : 約 36,800㎡
鉄骨重量  : 約3,200 トン 

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