2026年3月19日
ご安全に!
人口高齢化、人手不足、建設コストの上昇、脱炭素化への対応――。
建設業界は今、複数の構造変化が同時に進む「構造転換期」にあります。とりわけ非住宅分野では、新築を前提とした従来型の投資計画をベースにしつつ、リニューアル対応を含めた長期的な建物価値が重視されるようになっています。
こうした業界の変化を、現場・データ・制度の三つの視点から研究し続けてきたのが、『建設ビジネス』の著者であり、数多くの建設関係者への取材・講演を重ねてきた建設業コンサルタントの髙木健次氏です。今回は、同氏の視点を通じて、建設業界(特に非住宅分野)が直面する課題と、持続可能な産業に向けて今見据えるべき展望について伺いました。
髙木健次氏 クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP)/建設業コンサルタント
編集部:ご著書『建設ビジネス』を拝読しました。執筆の背景から教えてください。
髙木(敬称略):㈱クロスメディア・パブリッシングの、さまざまな業界を紹介するシリーズ本の企画があるのですが、第1弾の「魚ビジネス」が大ヒットしたことで、同じコンセプトで建設業界も取り上げられることになり、同社からオファーをいただいて建設版として執筆することになりました。
編集部:専門書とは違い、非常に読みやすい構成が印象的でした。
髙木:建設業界の本は、どうしても専門家向けに偏りがちです。そこで、いわば「業界特化型・池上彰先生」になったつもりで、とにかく噛み砕いてデータや制度を解説することを意識しました。
地方で講演をすると、建設会社を親から継いだ2代目の方や、社長の奥さまが、付箋をたくさん貼った私の著書を持って声をかけてくださることがあります。私自身、家業の塗装会社の倒産で苦労した経験があるので、同じような立場の方に届いてほしいという思いがあります。最近では、大学の進路指導室に置かれているケースもあるようです。
編集部:建設業界の課題として、まず「人手不足」が挙げられます。
髙木:「人手不足」という言葉だけでは、実態を正確に表しているとは言えません。総務省の労働力統計を見ると、20代の新卒でこの業界に入ってくる若者は、少子化にもかかわらず微増しています。女性も増加しています。
本当に不足しているのは、大手・中小を問わず30〜40代の中間層です。
編集部:若手が集まらない、という単純な話ではないのですね。
髙木:「建設業に若手が入らない」のではなく「都会の大企業に若者が流出している」のが実態です。直近10年間の建設業就業者のデータを地域別にみると、北海道・東北・四国・九州で高齢化が進む一方、若者は首都圏、東海、近畿に集中しています。地方の工業高校から東京や大阪の大手ゼネコンに就職するルートが確立した結果です。
求人倍率は一人の学生に何社が求人を出すかを示す指標ですが、工業高校の生徒の求人倍率は20倍、高専生は30~50倍です。大学生の求人倍率が1.6倍ですから、いかに専門系の学生の採用が難しいかが分かります。
外国人技能者についても、東北、新潟などの寒冷地では定着が難しく、地域差はさらに広がっています。これは日本で働く外国人の多くがベトナムなどの温暖な地域の方が多いためです。


※画像は髙木氏提供
Cap/髙木氏まとめ
○北海道・九州 :建設投資は増加。県境を越えた人材獲得競争が激化
○東北・新潟 :需要は減少傾向。外国人材が定着しにくく、日本人対応が中心
○関東・東海・北陸:需要・単価とも安定。製造業との人材獲得競争
○関西 :単価が低く、小規模事業者が多い
○中四国 :単価が低く、人口減少が進行
※編集部補足:
髙木氏は、地域特性を踏まえた戦略設計を行わない限り、全国一律の人手不足対策や成長戦略は機能しないと指摘します。
髙木:就業者に占める建設業就業者の割合を見てみると、需要のある場所と、職人の多い場所が最初から噛み合っていません。
例えば東京23区では、人口、新設住宅着工戸数が多い世田谷区よりも、江戸川区、足立区などに建設業就業者が多いのです。建設会社も江戸川区、足立区に集中する傾向にあり「家が建つ町と大工の住む町はズレる」のです。
こういった需給のズレは全国ほぼすべての地域で散見されます。例えば、トヨタ自動車の国内工場新設に湧く愛知県豊田市に建設会社は少ないなど、製造業が強い地域では建設会社が減る傾向にあります。建設会社は「エリア戦略」が重要なのです。
この構造を理解せずに「人が足りない」と言っても、根本的な解決にはなりません。需給のズレを乗り越えるべく、複数の地域に拠点展開できる体力のある会社と、特定の町でしか活動できない小さな会社では大きく業績に差がつきます。こうしたズレを解消するため、弊社は「職人酒場」という工事会社に特化したマッチングイベントを全国で開催しています。

※画像は髙木氏提供
編集部:現在の建設需要をどう認識されていますか?
髙木: AI進展を背景にしたデータセンターの拠点拡大や半導体関連を中心にした工場新設など、非住宅分野では堅調な需要が続いています。国土強靭化計画のもと、国交省予算も増えています。
一方で、ゼネコンとサブコンの力関係には変化が見られます。背景にあるのが建設技能者(職人)の不足です。背景には日本の法律の特殊性があり、建設技能者(職人)の有料人材紹介や人材派遣は法令で制約を受けています。「大工になりたい」と人材紹介会社に問い合わせても人材紹介会社は法令上、対応できないのです。
その結果、建設技能者(職人)がボトルネックとなり、受注が増えても現場の対応能力が追いつかない事態が起きています。「お金を出せば人が集まる」という一般的な人材市場の感覚が、建設職人には当てはまらない。現在、ゼネコンが施工管理者の確保とともに、協力会社の職人の採用支援や生産性の改善に取り組む施策が広がっています。
編集部:解決策として、M&Aも進んでいますね。
髙木:はい。近年は、大手ゼネコンを中心にM&Aが増加しています。人材を確保するため、「会社ごと買う」動きです。2025年施行の改正建設業法によって、協力会社への過度なダンピング圧力がかけられなくなり、利益が現場に回りやすい構造も生まれつつあります。
投資面では利益増加分をAI活用、施工生産性の向上(ユニット化等)、協力会社への投資に回せるかどうかが鍵になるでしょう。高専卒、工業高校卒の人材はすでに奪い合いが激化していますので、普通高校や文系大学生を採用・育成する動きも重要です。人材育成コストを負担するには会社規模が必要ということで、M&Aはさらに活性化していくでしょう。
編集部:非住宅分野の今後についてどのように認識されていますか?
髙木:職人の賃金上昇等に伴い、建設コストは今後も下がらないと見ています。これに加えて、人手制約、投資計画の採算性の問題等から事業化が成立しなくなるケースが出てきています。「中野サンプラザ」再開発計画の中断は、この象徴的な事例といえます。
新築の着工床面積が減少傾向にある一方で、リニューアル工事の需要は確実に増えています。ただし、リニューアル工事は統計に表れにくく、変化が見えにくい点には注意が必要です。国の統計は新築を前提に設計されているため、リニューアル工事の実態は過小評価されがちなのです。しかし、施主の立場からすれば、新築が諸事情により難しい場合に既存建物をどう活かすかを考えるのは自然な流れでしょう。
編集部:リニューアル工事の比重が高まることで、業界内の力学にも変化が生じる、特に「設備系工事」の存在感が増していくと、指摘されていますね。
髙木:鉄骨や生コンといった躯体系工事は新築への依存度が高い一方、空調・電気・機械設備は、建物がある限り定期的な更新が必要です。実際、足元で売上を伸ばしているのは設備系・機械設置工事です。リニューアル市場では設備系サブコンや専門工事会社の重要性が高まりますので、どの分野に強みを持つかによって、各社の今後の成長軌道は大きく分かれていくでしょう。
編集部:デジタル化(DX)については、どのように見ていますか。
髙木:弊社の行った調査では建設会社の約半数はいまだに紙かホワイトボードで日程管理を行っています。これは意識の問題というより、デジタルツールがスマートフォンで使いにくいなど「現場で本当に使える形」で提供されてこなかったことが大きいと考えています。
意外かもしれませんが、建設業は事務産業です。建設業就業者の5人に1人が事務員です。DXの遅れた会社は職人3人に対して事務員1人など、事務員の固定費が重くなります。受注の季節変動が大きい建設業において、事務員の固定費が重い会社は不利になる一方で、DXに前向きな会社は、地域を問わず業績を伸ばしています。
経産省のIT導入補助金、自治体の各種補助制度といった様々な支援策が充実している中で、「デジタル化の費用負担が大きいため着手できない」というのは言い訳にしかなりません。
また「人材が採用できない」と言いつつ、弊社の調査では工事会社の3割以上がホームページがありません。ハローワークが全国的に弱体化する中、ホームページやIndeedなどの民間人材サービスの活用は不可欠です。
DXは先進的な企業が取り組むものではなく、「やらないと経営が苦しくなる」ものになったのです。

※画像は髙木氏提供
高木:DXで重要なのは、高度な技術ではなく、「使いやすさ」です。これまでの習慣を大きく変えないことが、定着の鍵になります。あらゆるシステムをクラウドにして、スマホで動くような仕組みに変える。弊社が提案するシステムは全てスマホで動くように設計されています。
我々が、全国各地の建設会社さんにDX導入を支援する際には、何度も現地に足を運び、地銀さんや地元の建設業協会、商工会議所を回って説明会を行います。こうした地道な活動こそが DX化に必要なプロセスだと思っています。
編集部:最後に、顧客・パートナー企業へのメッセージをお願いします。
髙木:これからの建設ビジネスでは、「どこにボトルネックがあるのか」「それは誰の努力で解決できるのか」を、関係者全体で、具体的に数字で共有することが重要です。
建設は、一社だけで完結する産業ではありません。業界構造を理解し、同じ言葉で議論できる関係を築けるかどうか。それが、持続可能性を左右すると思います。
建設業界は今、単なる景気循環ではなく、構造そのものが変わりつつあります。
その変化を正しく理解し、顧客・パートナー企業と共通の前提を持つことが、これからの建設ビジネスにおいて欠かせません。
本稿が、建設業界に関わる皆さまと、これからの価値づくりを考えるための共通言語となれば幸いです。
髙木 健次(たかぎ けんじ)氏
クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP)
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京都大学卒業。事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業などの再生に従事。2019年、建設会社の経営に役立つデータ、事例などを分かりやすく発信する民間研究所兼オウンドメディア「クラフトバンク総研」を立ち上げ、所長に就任。ゼネコン安全大会講師、テレビの報道番組の監修・解説。著書「建設ビジネス」( クロスメディア・パブリッシング)。
国土交通省「第4回今後の建設業政策のあり方に関する勉強会」臨時委員。
『建設ビジネス』

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大手企業から地元の工務店、女性重機オペレーターや大工YouTuberなどのインタビューを多数収録し、「この10年で建設業界はどう変わったか」をわかりやすく解説。就職活動中の学生をはじめ、本業界に従事している人にも有益な一冊。
株式会社クラフトバンク総研:https://souken.craft-bank.com